マイナス1歳からの歯科予防

赤ちゃんの歯を守る「マイナス1歳」からの取り組み

「マイナス1歳からの歯科予防」という言葉を耳にされたことはありますか? 「マイナス1歳」とは、赤ちゃんが生まれる前、つまりお母さんのお腹の中にいる妊娠期間のことを指します。

赤ちゃんのむし歯予防は、歯が生えてからではなく、実はお母さんが妊娠している時から始まっているのです。

マタニティ/妊婦のイメージ

近年、歯科医療の現場では「KEEP28(生涯28本の永久歯を守り抜く)」という考え方が広まっています。実際に、幼い頃から適切なケアを受け続けた子どもたちの多くが、12歳になってもむし歯ゼロを達成しており、その実績は予防歯科先進国のスウェーデンにも引けを取りません。

当院でも、この「マイナス1歳」の時期を大切にし、生まれてくる大切なお子さまとお母さまの健康を守る「マタニティ歯科」に注力しています。

なぜむし歯になるの?
鍵は「菌のコントロール」と「生活習慣」

生まれたての赤ちゃんは「無菌状態」

生まれたばかりの赤ちゃんのお口には、むし歯の主な原因菌であるミュータンス菌はいません。しかし成長の過程で、どこからか菌が入り込み、お口の中に定着してしまうことでむし歯のリスクが生まれます。

「感染」を完全に防ぐことは難しい?

以前は「親からの口移しや食器の共有が原因」とされ、これらを厳格に避けるよう指導されていました。もちろん、唾液を介してご家族の菌が移ることは事実です。 しかし近年の研究では、感染経路は唾液に限らず、生活環境のあらゆる場所に存在することがわかってきました。つまり、どんなに食器を分けたりスキンシップを制限したりしても、普通に生活している以上、菌の侵入を100%防ぐことは困難だと言われています。

大切なのは「神経質になりすぎない」こと

「絶対に感染させてはいけない」と神経質になりすぎて、赤ちゃんとの大切なふれあいが減ってしまうのは悲しいことです。 感染を完全には防げないという前提に立ち、当院では以下の2つの現実的な対策をご提案しています。

ご家族のお口の中を清潔にしておく

赤ちゃんに接するパパやママ、ご家族のお口の中の菌が少なければ、万が一菌が移ったとしても、その影響は小さくて済みます。妊娠中に歯科治療やクリーニングを受けておくことは、赤ちゃんへの素晴らしい贈り物になります。

② 「お砂糖デビュー」を焦らない

むし歯菌は、糖分(ショ糖)をエサにして酸を作り、歯を溶かします。逆に言えば、たとえ菌がいても、エサとなる砂糖がなければむし歯は活動できません

甘いお菓子やジュースを与える時期をできるだけ遅くする、ダラダラ食べさせないといった食習慣の工夫は、感染対策と同じくらい、あるいはそれ以上に重要な予防策です。

「感染の窓」を知っていますか?
3歳までの環境づくり

生後1歳7か月~2歳7か月(19か月~31か月)頃は、乳歯が生えそろう時期であり、特にむし歯菌が定着しやすい時期として知られています。専門的にはこの期間を「感染の窓」と呼びます。

この時期に大量のむし歯菌が定着してしまうと、将来にわたってむし歯になりやすいお口の環境ができあがってしまいます。反対に、この時期を無事に乗り越えれば、3歳以降は新たな菌が定着しにくくなり、一生涯むし歯になりにくい強いお口を育てることができるのです

お母さんのための「マタニティ歯科」
歯周病と早産のリスク

妊婦 マタニティイメージ

妊娠中こそ、お口のケアが重要です

「マイナス1歳からの予防」は、赤ちゃんのためだけではありません。お母さん自身の健康を守るためにも非常に重要です。特に知っていただきたいのが、歯周病と妊娠の深い関係です。

歯周病は「早産・低体重児出産」のリスクを高めます

驚かれるかもしれませんが、重度の歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない方に比べて早産や低体重児出産のリスクが約7倍も高くなるというデータがあります。この数値は、タバコやアルコール、高齢出産によるリスクをも上回ると言われています

なぜ口の病気がお産に影響するの?

歯周病による炎症が起きると、「炎症性サイトカイン」という物質が血液中に入り込み、全身を巡ります。この物質が子宮に到達すると、子宮の収縮を促してしまい、まだ出産の時期ではないのに陣痛のような状態を引き起こしてしまうのです

妊娠中はトラブルが起きやすい時期

妊娠中は女性ホルモンの増加により、特定の歯周病菌が増えやすい環境になります。さらにつわりで歯磨きが十分にできなかったり、食事回数が増えたりすることで、お口の環境は悪化しがちです。「妊娠性歯肉炎」という言葉がある通り、妊婦さんは非常にお口のトラブルが起きやすい状態にあるのです

妊娠中の歯科治療 Q&A

レントゲンを撮っても大丈夫ですか?

歯科用レントゲンの放射線量は極めて微量で、自然界から受ける放射線量の100分の1以下です。撮影場所もお腹から離れており、防護用エプロンも着用しますので、赤ちゃんへの影響は心配ありません。

麻酔は影響しませんか?

歯科の麻酔は局所麻酔であり、使用量もごくわずかです。薬液は注射した場所で分解されるため、胎盤を通してお腹の赤ちゃんに届くことはありません。痛みを我慢してストレスを感じるよりも、適切に麻酔を使ってリラックスして治療を受ける方が、母子ともに良い選択と言えます。

薬の処方はありますか?

基本的には極力控えますが、どうしても必要な場合は、妊婦さんへの安全性が確立されているお薬を選んで処方いたします。産婦人科の先生とも連携可能ですのでご安心ください。

受診のタイミングについて

【妊娠初期(〜15週頃)】

つわりなどで体調が不安定な時期です。無理な治療は避け、体調が良い時に検診や歯磨き指導を受ける程度に留めましょう。痛みがある場合は応急処置のみ行います。

【妊娠中期(16週〜27週頃)】

いわゆる「安定期」です。治療に最も適した時期ですので、むし歯や歯周病の治療、クリーニングなどはこの期間に済ませておきましょう。産後は育児で忙しくなるため、今のうちのケアをお勧めします。

【妊娠後期(28週以降)】

お腹が大きくなり、診療台に仰向けになるのが辛くなる時期です。早産のリスクも考慮し、緊急性がない限りは産後の治療をご案内することがあります。

赤ちゃんの歯の芽は、もう育っています

赤ちゃんの歯の芽(歯胚)は、妊娠7週目という早い段階から作られ始めます。妊娠4〜5ヶ月頃には石灰化(硬くなること)が始まります。「赤ちゃんにカルシウムを取られて歯が弱くなる」という俗説がありますが、これは間違いです

赤ちゃんの未来の健康のため、そしてお母さん自身の健康のために。 つわりが落ち着いた頃に、ぜひ一度歯科検診へいらしてください。「マイナス1歳」からのスタートが、お子さまの一生の笑顔を守ります。

ご予約・お問い合わせ

妊娠中の方、妊活中の方、お気軽にご相談ください。 ご予約の際は「マタニティ歯科希望」とお伝えいただけるとスムーズです。

※妊婦歯科健康診査の受診券をお持ちの方は、母子手帳・保険証とあわせてご持参ください。

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